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志を高く!よなよな・ヤッホーブルーイング井手社長「しくじりは当たり前のプロセス」【後編】

しくじりを共有してくれるのは、前回に続き、「よなよなエール」や「水曜日のネコ」など、個性的なクラフトビールで人気を集めるヤッホーブルーイング(長野県軽井沢町)の社長、井手直行さん(54)です。

今でこそ、クラフトビール業界の代表的な存在になり、ファンを引きつけるマーケティングも相まって、19年連続の増収を記録するヤッホーブルーイング。しかし、20年ほど前には売り上げが急減し、返品の山を一缶一缶、自らの手で廃棄せざるを得ないほどの苦境に陥って、倒産を覚悟した時期もありました。

ヤッホーブルーイング・井手直行社長=清水憲司撮影
ヤッホーブルーイング・井手直行社長=清水憲司撮影

そんなどん底の時代、井手さんはメルマガで賛否両論を巻き起こしたことをきっかけに、復活に向けた一条の光を見いだします。志を高く持てば、トラブルは必ず起こる。それはしくじりや失敗というより、「当たり前のプロセス」。井手さんが語ります。

#しくじり
#マインドセット
#ファンづくり

に課題や関心を持つ方々にお薦めです。

皆さん、失敗するのって嫌ですよね。でも、アインシュタインはこんな言葉を残しています。

 「失敗や挫折をしたことがない人は、何も挑戦したことがない人だ」

そう、失敗は挑戦の証しなのです。失敗から立ち上がり、それを糧に次の挑戦に踏み出す。「しくじり2.0」は、そんな生き方を実践する方々にお話を聞いていきます。

どん底はもう見たくない

ヤッホーブルーイングは1997年に創業しましたが、地ビールブームが去ると、売り上げが急減。2000年ごろには、返品と在庫の山を抱え、ビールを一缶一缶、自ら排水溝に捨てざるを得なくなるほどのどん底の時代を迎えます。

小売店での販売が苦戦を続ける中、背水の陣のつもりで、インターネット通販のテコ入れを決心。親しみを持ってもらうために自分のプライベートを書いたメルマガを配信すると、お客さんの間で賛否両論を巻き起こしました。「面白かった」「久しぶりに注文した」という好反応と同じぐらい、「お前の話なんて聞きたくない」「何様のつもりだ」という怒りの声とご指摘が届いたのです。

「これ以上、貴重なお客さんを減らすわけにはいかない」。井手さんは心が折れそうになりながらも、メールに一つ一つ返信し、会社の苦境、そんなメルマガを配信するに至った経緯を説明します。

次第に理解を示してくれるお客さんたち。井手さんは、この「しくじり」を通して、賛否両論のある領域にこそ、ヤッホーの生きる道があることを再確認します。

ヤッホーは大企業ではないのだから、「100人中99人が支持してくれる製品」ではなく、100人のうち1人でいいから高い熱量で支持してくれるような製品、好き・嫌いの出る領域にこそ勝機がある。頭の中ではずっと自分に言い聞かせてきたつもりでしたが、プロモーションやマーケティングの点では、賛否両論のある手法に突き進むことには、ためらいがありました

当時の私はすぐにあきらめていたし、強くもなく、困ったことがあると、ヤッホーの創業社長である星野佳路(星野リゾート代表)に頼ってばかりいました。そんな私がトラブルがあってもメルマガをやめなかったのは、どん底の状態をもう見たくないと思ったからでした。

見つけた「本当にやりたかったこと」

製品がほとんど売れず、倒産の危機があり、会社の仲間たちが半分ぐらい、あっという間に辞めていった。
そのトラウマが根底にありました。あの悲惨な状況をもう繰り返したくない。残ってくれた半分の社員たちのために、何とかしないといけないという責任感がありました。

もう一つ、心の中にあったのは、「人が好き」で「人々とつながりたい」から、ヤッホーに入ったんだという思いでした。ビールを通じて、誰かに喜んでもらえることがしたかった。
でも、実際に営業で回るのは、スーパーや酒屋さんという流通の方々であって、「よなよなエール」を飲んでくれている方々とお話しする機会はほとんどありませんでした。

よなよなエール=ヤッホーブルーイング提供
よなよなエール=ヤッホーブルーイング提供

メルマガは賛否両論になりましたが、実際にビールを飲んでくれている方々と初めて、ダイレクトにつながれたような気がしました。苦情やご指摘の声には心が痛みましたが、応援してくれている方々も確かにいる。ああ、これが自分の本当にやりかたかったことなんだ。それがうれしくて、諦めずに頑張れたんだと思います。

苦情は会社を磨く「宝の言葉」

ヤッホーは、私たちのビールを支持してくれる方々を「お客様」ではなくて「ファン」と呼んでいます。ファンの方々を大事にする。それだけでなく、もっと喜んでもらえるような製品やサービスを展開していくマインド、企業文化を根付かせたいと考えています。その原点は、これまでお話ししてきた苦情が殺到したメルマガにあります。

この時に諦めていたら、ヤッホーは「無難なこと」をする会社のままだったかもしれません。でも、私たちは賛否両論があっていいと思うことにしました。

支持してくれる方々にずっと飲み続けていただきたいのはもちろんですが、いったん否定されたとしても、きちんと自分たちの考えを説明し、丁寧に対応していけば、ひょっとしたらファンになってくれるかもしれません。
実際、メルマガに苦情を寄せてきた方々の中にも、その後、ファンになってくれた方々がたくさんいます。

2022年ヤッホーブルーイング醸造所にて(井手社長中央)=本人提供
ヤッホーブルーイング醸造所にて(中央が井手社長)=本人提供

苦情やご指摘は、会社を良くする「宝の言葉」です。諦めずに話を聞き、不満を感じている方々にも喜んでもらえることを考えていく。

ヤッホーの製品やサービスは万人に受け入れられるようなものではないけれど、こんな私たちでよければ、末永く付き合っていただきたい。

今でもたくさんの試行錯誤がありますが、一生懸命に取り組んでいけば、お客様との間で「ファン」と呼べるほどの深いつながりを作ることができる。そんな会社に少しずつ近づいてきたと思っています。

しくじりは「通らなければならないプロセス」

メルマガのトラブルについてお話ししてきましたが、私はそれが「失敗」や「しくじり」だったのではなく、「通らなければならないプロセス」だったと考えています。

高い志に向かって進むことは、険しい山登りに挑むことに例えられます。ヤッホーのビジョンは「クラフトビールの革命的リーダー」になるというものです。かなりの高みを目指しているので、その過程ではうまくいかないことがたくさん起こります。

足を滑らせて数メートル、場合によっては10メートル滑り落ちてしまうこともあるし、迷子になって間違った方向に進んでしまうこともある。けがをしてしまうかもしれないし、不運にも獣に出合って大変な目に遭うかもしれない。
高い山に登ろうとすれば、そうしたことは必ず起こる「当然のプロセス」ですから、失敗やしくじりではありません。

しかし、途中で諦めてしまったら、それは単なる失敗やしくじりに終わってしまう。そして苦い思い出しか残らない。

でも、諦めずに進んでいけば、半年や1年という期間で見れば、必ず以前より高い場所に登っている。ふと振り返ったら、「こんなに登ってきたんだ」と気づく。そうやって自分を鍛えて成長していく。そんなふうに考えています。

ある時から、私はビールファンの方々に幸せを届けていけば、それを世界中に広げていければ、「ビールの力で世界を平和にできる」と考えています。そんなことを志すようになった以上、失敗やしくじりを恐れてなんていられません。

みんな「すごい人物」になれる

自分の経験で言うと、経営者には二つのタイプがあると感じています。

一つは創業者に多いですが、学生時代から事業の種を考えていて、その目標に向かって真っすぐに突き進み、早い時期に成功を収めるタイプ。「天才型」、もしくは「目標一直線型」と言えると思います。

もう一つは、私のように、若い頃にはあまり目標がはっきりしていなくて、自分がやりたいこと、楽しいと感じることを探して、そこにたどり着くまで歩き回るタイプ。「散歩型」とでも言いましょうか。
でも、いろいろな経験をするうちに、雲に隠れていた頂上がパッと見えて、そこからがむしゃらに突き進んでいく。

スタッフと井手社長(右)=本人提供
スタッフと井手社長(右端)=本人提供

私が「仕事って面白い」と思えたのは、30代後半になってからでした。自分のやりたいことを見つけられないまま、ネット通販の仕事を始めたのが37歳の時。人さし指でパソコンを打つところから始めて、数年後には「この仕事が天職だ」と思えるようになった。

目標一直線型のように、早くからバンと目標を定めて進むのが理想かもしれませんが、私のように40歳近くになって天職が見つかる散歩型の人もいる。

今の20代、30代の方々を見ていると、当時の私よりはるかに優秀です。その頃、私がやっていたのはパチンコだったんですから、雲泥の差です。そんな彼ら、彼女らが私ぐらいの年齢になる頃には、ビル・ゲイツかスティーブ・ジョブズのようになっている。みんな絶対にすごい人物になると信じています。

<おわり>

失敗は挑戦の証しです。失敗から立ち上がり、それを糧に次の挑戦に踏み出す。この連載「しくじり2.0 みんな失敗して大きくなった」では、そんな生き方を実践する方々にお話を聞いていきます。

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