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入山章栄教授が語る「遠くを見る」から始める経営イノベーション

イノベーションを生み出すには「遠くを見る」ことが必要不可欠--。そんなふうに聞いたことはありませんか? 日常をいったん離れて、いつもとは違う人々とふれあい、語り合うことで、いつもとは違う視点とエネルギーを持ち帰る。その大切さを、イノベーション@ファミリービジネスに詳しい早稲田大大学院・入山章栄教授に聞きました。

「ファミリービジネスが連綿と受け継いできた価値と、遠くを見ることで得られる知見が組み合わされれば、新しい革命が生まれる」

そう語る入山教授ですが、ファミリービジネス、スタートアップ、大企業のコミュニティーがそれぞれ分断される形で存在し、有機的につながり合えていない現状には危機感を抱いています。背景の異なる人たちとともに「遠く」を見て語り合い、自らを変化させていくことの大切さ。ここから詳しく見ていきましょう。

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に興味を感じている方々にお薦めです。

早稲田大大学院の入山章栄教授=丸山博撮影

イノベーションを生み出す「知と知の組み合わせ」

入山章栄です。毎日新聞経済プレミアの連載「未来を拓(ひら)く経営理論」をお読みいただいた方々には、おなじみだと思いますが、イノベーションは知と知の組み合わせから生まれます。

ファミリービジネスについてみると、イノベーションを起こした後継ぎには、もともとは会社を継ぐ気がなかったというケースが少なくありません

少し意外に感じられるかもしれませんので、一つ事例をご紹介します。

サンワカンパニーの山根太郎社長=同社提供

例えば、「住宅建材業界のユニクロ」と呼ばれるサンワカンパニーの山根太郎さん「お前には継がせない」が育んだ“住宅建材のユニクロ”参照)は、お父様の経営していた会社を潰そうというぐらいの気概で、伊藤忠商事に入社してビジネス経験、海外経験を積みました。

その後、お父様が急死されたことを受け、会社を継ぐことになります。伊藤忠商事という「遠く」に身を置き、外部の視点を持てたことで、それまでの業界の常識を覆し、インターネット通販から得られる多様なデータを活用したユーザー心理の分析、それを生かした高いデザイン性といったイノベーションに踏み出せました。

山根さんは、継ぐつもりがなかったから「遠く」を見ることになった。そこで、自分の会社や業界にはない知を探し求める「知の探索」をすることができたのです。

「遠く」とはどこなのか。それはスタートアップでも、コンサルタントでも、海外でもよいのですが、遠く離れたところにいた後継ぎがファミリービジネスに入ると、それまでお父様やお母様が連綿と引き継いできた価値と、知の探索で得た知見が組み合わせられて、新しい革命が生まれる。私はファミリービジネスにおけるイノベーションのメカニズムをこう分析しています。

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「遠く」を見て、自分に変化を起こす

「遠く」にある知を見つけるためには、自社や業界から離れた遠いところに、自らが出て行くことが不可欠です。

イノベーションは知と知の新しい組み合わせから生じるので、普段と同じところにいては絶対に生まれません。もっと言えば、イノベーションを生み続けるためには、遠くを見続け、遠くに出て行くことを常態化させることが重要です。私の知る優れた経営者さんたちの多くは、いろいろな場所に出向き、物理的にも精神的にも「いつもの場所」にとどまるのではなく、移動に移動を重ねていると感じます。

遠くに出てみようと言われても、日常の仕事に追われていたり、自分がいなければ会社が回らなかったりすると、心配になる方々もいるかもしれません。しかし、これは慣れの問題だとも言えます。

「遠く」を見ることは、言い換えれば、自分に変化を起こすということです。これからの変化の激しい時代を生き抜くためには、自分自身が変化していくことを「常態」と考えることが極めて重要です。変化をくせにして、習慣化しておく。そうすることで、本当に大きな変化が来た時に対応できる力をつけることができるのです。

もう一つ指摘しておきたいのは、「遠く」を見て、自分でも「何かをやりたい」と思い浮かんだとき、それを自ら語ることが非常に重要です。

人間は誰しも、言葉にしにくい思いや発想といった「暗黙知」を豊富に持っています。しかし、それらは言葉になっていないので、自分でもぼんやりとしか認識できていません。そうした思いや発想を自ら言葉にして語らなければ、どんなに熱く優れた思いや発想であっても明確な像を結ぶことはなく、ましてや自分自身が「これをやろう」と決心する「腹落ち」に至ることは決してありません。

ファミリービジネス、起業家やスタートアップ、大企業。それぞれが集うコミュニティーが生まれてきています。それらはとても素晴らしい動きですが、それらが分断する形で存在していては、単なるインナーサークルに終わってしまい、新しいイノベーションを生み出す力はどうしても弱くなってしまう。異なる背景を持ちつつも志を同じくする方々が集まって語り合うことは、非常に重要です。

「遠く」を見て、同志とともに語り合う中で、変化に対する恐れもやがて薄れ、むしろ変化がないと「ちょっと物足りないぞ」と思うぐらいになる。まずは始めてみましょう!

イノベーションに年齢は関係ない

もう一つ、「イノベーションに年齢は関係ない」ということを強調したいと思います。

一般的に、若い人の方が変化を好むと言われます。確かに年齢を重ねるほど、思考や行動が保守的になるケースが多いという傾向はあるでしょう。ところが、世の中で何事かを成し遂げたイノベーターたちは、遅咲きの方々が少なくありません。

歴史系ポッドキャスト「コテンラジオ」で知られる深井龍之介さんは「世界史を俯瞰(ふかん)して、思い込みから自分を解放する 歴史思考」という著書で、インド建国の父、ガンジーが青年時代までは全く目立たない存在だったこと、世界的なチェーンとなったケンタッキーフライドチキンの創業者、カーネル・サンダースが同社を起業したのは、実に65歳になってからだったことを指摘しています。

マハトマ・ガンジー

アレクサンダー大王のように、早熟で人生を突っ走るタイプの偉人もいます。しかし、早い時期に成功を手にしてしまうと「これが正しい」という思い込みができあがってしまい、それ以上の「知の探索」をしなくなってしまう。つまり自分の世界が広がらなくなってしまう。その結果、失速するのも早く、その後は鳴かず飛ばずになってしまうケースが多いのです。

本物のイノベーター、実は遅咲き

本物のイノベーターたちは、遅咲きです。米国で起業する人の平均年齢は47歳と言われています。それはなぜなのか。その年代はそれまでの経験、それに裏打ちされた創造性に、「より意義深い人生を送りたい」という欲求が結びつくユニークなタイミングにあたるからだという研究もあります。

理想を言えば、20代、30代でさまざまな挑戦をして、しくじりを経験しておくことはとても大切です。しくじりを重ねることで、それまでは自分の気づいていなかった世界に気づく。すなわち「知の探索」を重ねることになるからです。

若い頃からしくじりを恐れず、その中で「知の探索」を怠らなかった人が、人生の後半に花開く。本物のイノベーターが遅咲きなのは、そういう理由があると考えられます。

イノベーションに年齢は関係ない。「遠く」を見て自分の世界を広げるのに、年齢的に手遅れということはない。ファミリービジネスの後継者の方々、これからの生き方を探るすべてのビジネスパーソンの方々に、このことを強くお伝えしたいと思います。

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