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プラスチックの「生涯設計」を描こう〜廃材から生まれた宝石のようなマグネット

リサイクルプラスチックを使った小物ブランド「ame:アメ」(本店・東京都港区北青山)が、化粧品大手コーセーとのコラボレーションで、互いの工場から出た廃材をアップサイクルし、彩り豊かに光り輝くマグネットを生み出した。「アメ」を展開するのは、プラスチック容器のデザイン・成形を手掛ける本多プラス(愛知県新城市)。プラスチックへの逆風が強まる中、同社社長の本多孝充さんが目指すのは「本物のリサイクル」だ。

マグネットは、口紅やアイライナーといったメーキャップ化粧品の製品開発の過程で発生する多様な色彩の廃材(バルク)を、透明なプラスチックに封じ込めた。プラスチックも本多プラスの工場から、品質管理の過程で出てしまう廃棄プラスチック(廃プラ)を活用した。

本多プラス提供
化粧品の廃材(バルク)=本多プラス提供
本多プラス提供
リサイクルプラスチック=本多プラス提供

豊かな色彩を封じ込める廃プラスチック

マグネットにしたのは、いつでも目につくところに置いてほしいから。ハンドメードだから、一つとして同じ作品はない。

「ame:アメ」=本多プラス提供
「ame:アメ」のマグネット=本多プラス提供

こだわりは、化粧品ならではの豊かな色彩を損なわない透明度だ。プラスチック樹脂に包み込む時の温度が高すぎればバルクが変色してしまうし、冷却するスピードを間違えばプラスチックが白化して透明度が落ちてしまう。半年間にわたる試行錯誤を経て、製法を確立した。

本多さんは「この美しい色彩をいかに奇麗に封じ込めるかを、ずっと考えてきました。琥珀(こはく)の中に封じ込められた化石のように、1万年後の人類がこのマグネットを見つけた時に『この奇麗なものは一体、何だ』と驚くようなものが作りたかった」と話す。

本多プラスの本多孝光社長=同社提供
「ame:アメ」の作品に囲まれる本多プラスの本多孝充社長=同社提供

「アート×ものづくり」を追求することで、本多さんは下請け仕事がメインだった本多プラスを、化粧品や食料品、医薬品のパッケージデザインやブランディングを大手企業に企画・提案できる会社に生まれ変わらせてきた

いつの日か、海外高級ブランドのルイ・ヴィトンやバーバリーに負けない「世界に冠たるブランド」を生み出す。アメはそんな本多さんの野望の一里塚だ。「リサイクルだから、アップサイクルだから買ってくださいという仕事はしたくない。本当に美しくないと人の心を打つことはできないし、ビジネスとしても成り立っていかない」と本多さんは考えている。

「奇麗」じゃなければリサイクルは根付かない

プラスチック業界には、「脱プラ」という逆風が吹き荒れている。プラスチックはレジ袋や各種容器だけでなく、家電、化繊の衣類や布団類、ソファやカーペットなどの家具・インテリア、建材、自動車、航空機——と用途が極めて広く、人々の生活と産業に欠かせない存在だが、使い捨てにされることが多い

背景には、プラスチック会社の大半が下請けで、「とにかく安く」を求められる業界の構造がある。「とにかく安く」だから、リサイクルも進まない。その一方で、エコな素材を使ったとしても、こうした業界構造が変わらなければ、一時の流行か話題作りにとどまってしまうだろう。

「ame:アメ」=本多プラス提供
「ame:アメ」のマグネット=本多プラス提供

本多さんが「アメ」を立ち上げたのは、プラスチックには、ずっと手元に置きたくなるような美しさがあることを証明するため。もう一つの目的は、業界構造が大きく変わらない中でも、確実にできるリサイクル手法の確立だ

それは、自社の工場で出る廃材をすべてリサイクルする「インハウス・リサイクルシステム」。コーセーとの連携で生まれたアメのマグネットのように、取引先と自社の双方の工場廃材を減らしていく。エコ素材の方が話題としては目立ちやすいが、一過性のもので終わってしまっては意味がない。「それ以前の問題として取り組むべきことがまだまだ、たくさんある」というのが本多さんの考え方だ。

アメは、本多さんが提唱する「プラスチックの生涯設計」という構想の一部でもある。プラスチックは数回のリサイクルが可能で、そのたびに新たな製品に生まれ変わる。最終的に焼却処分される時にはコークスと同等の熱量を出すとされる。

プラスチックを極力リサイクルしつつ、最期を迎えるときには石油や灯油の代替燃料として使用するという「生涯設計」をあらかじめ描いておければ、資源の有効活用になる。

「ame:アメ」=本多プラス提供
「ame:アメ」のマグネット=本多プラス提供

しかし、現在の業界構造を乗り越えて、プラスチックの生涯設計を実現するには「世の中の役に立つ」だけでは足りない。「廃プラから生まれたアメを美しいもの、カワイイものとして、消費者が手に取ってくれて、価値を感じてもらえて初めて、そのシステムが生きてくる」。本多さんは今後も、協業できる企業と連携しながら、人々の心に届くプロダクトを生み出していくつもりだ。


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