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父の急死とリーマン・ショック。土壇場でつかんだ生き残りの切符【第三話】

製造業の「要」として戦後の経済成長を支えたものの、近年は安価な海外製品に押されて廃業するケースが多い鋳造業界。東京・八王子の「栄鋳造所」の4代目経営者、鈴木隆史さんは何度も襲ってくる危機を乗り越え、会社を飛躍させました。第三話は、リーマン・ショックをバネにグローバル展開に踏み出した経緯を追いかけます。

栄鋳造所の鈴木隆史社長=清水憲司撮影
栄鋳造所の鈴木隆史社長=清水憲司撮影

2008年、交通事故で急死した父敏雄さんが使っていた会長室には、金庫が二つあった。社長の鈴木隆史さんが鍵を探して開けてみると、一つ目には敏雄さんの何十年分もの給与明細が収まっていた。
もう一つの金庫から出てきたのは、消費税や社会保険料の納付書の束。慌てて計算機をたたくと、総額8000万円。その頃、栄鋳造所はリーマン・ショックのあおりで売り上げが急減していた。「これで終わった」。一時は夜逃げしないといけないと思い詰めた。

税金は税務署に掛け合って何とか分割払いを認めてもらったが、世界的に製造業が苦境に陥る中で、仕事が消えていた。

経営をつなぐことができたのは、後継者育成塾「はちおうじ未来塾」の関連で出席した異業種交流会での出会いがあったからだ。
あるパン店経営者が、たい焼きチェーンを出すので、その金型を大量に作ってほしいという。鋳物業界では、たい焼きの型は精度を求められない「誰でもできる仕事」。同業者には「あそこも落ちたな」と陰口をたたかれたが、そんなことを気にしている状況ではなかった。

「できます」活路を開いた新製品

交流会では、大手電気機器メーカーが鋳物とパイプを一体化させる技術の開発に苦労しているという情報も耳にした。これまで付き合いはなかったが、電話を一本入れ、会社を訪ねると「もう予算を使ってしまった」と言われて、いったんは引き下がった。それでも諦めきれず、工場に戻って現場スタッフたちに作成を指示。翌日には試作品を持ち込み、共同開発にこぎ着けた。

栄鋳造所の鈴木隆史代表取締役社長(左)=西夏生撮影
栄鋳造所の鈴木隆史代表取締役社長(左)=西夏生撮影

この新製品「コールドプレート」は、パイプに水を通すことで、鋳物が高性能の冷却装置になる。半導体製造装置の検査機器やバッテリー、コンピューターサーバーの冷却など多様な使い道が想定され、栄鋳造所の屋台骨を支えることになった。

この技術に目をつけたのが、半導体製造を手掛ける韓国の巨大メーカーだった。栄鋳造所の共同開発相手だった大手電機機器メーカーの関連事業を買収。栄鋳造所にも「韓国国内で製造したいが、できる会社がない」としてコールドプレート技術の買収を打診してきた。

「いくらなら売ってくれるか」と問われ、おおざっぱに「5億円」と答えると「それでも買う」という。自力での海外展開を考えていたため断ったが、リーマン・ショックの打撃が癒えない時期。その晩は「しまった。売るべきだった」と後悔した。

過去最高益!「グローバル展開へ」

半年後、韓国メーカーの担当者が再び訪ねてきた。「やはり他社では作れない」。今度は、八王子の工場で作ったコールドプレートを韓国に輸出することで合意。韓国に支店を開設することも決めた。

栄鋳造所の「コールドプレート」=同社提供
栄鋳造所の「コールドプレート」=同社提供

売上高は急増し、過去最高益をたたき出した。それまで100%国内受注生産だった栄鋳造所は、海外売上高が9割を占める会社に変貌する。これと前後して、グローバル展開を本気で考えるようになった。

(初出:毎日新聞「経済プレミア」 2021年1月5日)

<第四話に続く>

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