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ジャパネット創業者・髙田明さんが語る「人生はボトルネックを探す旅」

今回、しくじりを共有してくれるのは、軽妙な語り口でお茶の間の人気を集めた通信販売大手「ジャパネットたかた」(長崎県佐世保市)の創業者、髙田明さんです。

会社勤めを経験した後、父母が経営する長崎県平戸市のカメラ店に入った髙田さんは、佐世保市に営業所所長として店を出し、37歳で分離独立。41歳の時にラジオを使った通信販売を始め、その後、全国ネットのテレビショッピングへと拡張させて、ジャパネットと髙田さんはテレビショッピングの代名詞のような存在になりました。

髙田さんは66歳の時に、自らが創業したジャパネットの社長職を長男の旭人さんに譲り、早期の事業承継のお手本とも言われています。そんな髙田さんが自らの「大きなしくじり」として挙げたのは、2004年に発覚した顧客情報流出事件。危機に陥った時こそ、リーダーとしての真価が問われる。髙田さんが語ります。

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皆さん、失敗するのって嫌ですよね。でも、アインシュタインはこんな言葉を残しています。

「失敗や挫折をしたことがない人は、何も挑戦したことがない人だ」

そう、失敗は挑戦の証しなのです。失敗から立ち上がり、それを糧に次の挑戦に踏み出す。「しくじり2.0」は、そんな生き方を実践する方々にお話を聞いていきます。

「ジャパネットたかた」のスタート地点になったカメラ店のミニチュア模型をのぞきこむ同社創業者の髙田明さん=清水憲司撮影
「ジャパネットたかた」のスタート地点になったカメラ店のミニチュア模型をのぞきこむ同社創業者の髙田明さん=清水憲司撮影

「しくじりのない人生」

僕は大学卒業後に就職して、ドイツのデュッセルドルフなどで仕事をしていました。25歳でその会社を辞めて、父母がカメラ店をやっていた平戸に帰省した時に「手伝ってくれ」と言われて、ちょっと手伝ったら、それにはまってしまったんです。

その後、佐世保でカメラ店を開いて、41歳の時に本格的に通信販売に入りました。ラジオから始めたんですよ。それからテレビショッピング、カタログやチラシなどの紙上ショッピング、インターネットショッピング。いつの間にか、メディアミックスショッピングのジャパネットたかたができていきました。

僕は「失敗のない人生、しくじりのない人生(を歩んできた)」と言っています。74年も生きてきて「失敗がない」というと横着な感じがするでしょう。なぜ、こういう言い方をするかというと、一般的には、うまくいかなかったことを「失敗」「しくじり」と言うけれど、僕はそうではないと思っているんです。

人生は山あり谷あり。うまくいかないことって、いっぱいあるんですよね。その積み重ねが人生だから。

「大変なことが起きた」顧客情報流出事件

人生はうまくいかないことを何度も何度も経験する。10回よりも100回、100回よりも1000回、積み重ねていく中で、自分自身がたくさんのことを学び、成長していける。

ラジオやテレビで「こんな失敗をした」ということが多少はあるんですけども、それを反省して、自分への試練だと思って、会社の社員とも共有して、それを乗り越えてきたのが、僕の人生だったなあという気がします。

とはいえ、僕の「大きなしくじり」を思い返せば、やはりジャパネット時代のこと。顧客情報流出事件になるかもしれません。

ジャパネットたかたの顧客情報流出は2004年、毎日新聞の報道で発覚した。流出した顧客情報は51万人分。元社員2人が窃盗容疑で逮捕された。個人情報保護法の全面施行を控え、企業による個人情報保護の重要性が認識され始めた時期だったこともあり、大きな注目を浴びる結果になった

報道の前日、新聞記者さんが資料を持ってこられて、「これはジャパネットさんの顧客情報ですね」と。社内にあるべき情報を記者さんが持っていること自体がおかしな状況です。調べてみると、すべてジャパネットのものであると分かったんです。

報道が出た日の朝、会社に行くと、全国からテレビ、新聞、雑誌の記者40~50人が待ち構えていました。準備も何もできていませんでしたが、すぐに記者会見を開き、質問が出尽くすまでお答えしました。

情報の流出を認め、謝罪するジャパネットたかたの髙田明社長=同社提供
情報の流出を認め、謝罪するジャパネットたかたの髙田明社長(左端)=同社提供

これは本当に大変なことが起きた。一番感じたのは、自分が何のために仕事をしてきたのかということでした。お客さんに向き合う仕事をしてきたのに、これだけの迷惑をかけている。

会社のトップとして、この状況を招いたのは僕自身だ。その人間がテレビに出るわけにはいかない。会社としての対策も立てないといけない。約2カ月間にわたって、テレビもラジオも、すべての放送をストップしました。

実はこの時、ジャパネットはテレビショッピング10周年記念の番組を用意していました。タレントさんをお呼びして収録も終え、それを流すばかりになっていたんですよね。何十億円分の商品を手配して、放送の枠も何億円も使っておさえてありました

でも、放送ストップを決断した時、そうした状況は頭の中に一切なかった。お客さんに迷惑をかけている企業が、テレビやラジオに出ることはできない僕自身もできない。ほかの社員もいますけど、「商品を買ってください」なんて言えるわけがない。なぜ、そうしたことが起きたのか、原因解明に本気で取り組むことが一番、今やらなきゃいけないことじゃないかということでした。

性善説と経営トップの責任

僕自身は、育った環境が平戸ということもありましたし、両親も真面目な人生を送っていましたから、いつの間にか性善説が植え付けられたと思います。

人間って、そんなに悪い人はいないよねということで、自分自身も生きてきましたし、会社が大きくなっていく過程でも、社員も含めて、みんなファミリーでやってきたという感覚を持っていました。

しかし、犯人は元社員の2人でした。ものすごく可愛がった社員でもありました。だから、すごく残念だったんですけど、そこに僕自身の責任があったということを感じました。

例えば、お店を開けっぱなしにして、店員も留守にしている駄菓子屋さんで、幼い子どもがお菓子を盗んでいったら、その子どもだけが悪いんでしょうか。そうした状況を作っているお店も悪いのではないか。情報流出事件でいえば、それができるような状況にしてしまっていた。

性善説であること。そこは全然、後悔していないんです。とはいえ、経営のトップとして、そういう事態を防ぐ体制を作っておく責任、リスク管理をしっかりする責任があった。しかし、そこに僕自身が至っていなかった。気づきが遅れた。これこそ、まさしく僕の「しくじり」「失敗」だったかもしれません。

「ゼロに戻っても、またやればいい」

放送ストップの間に、とにかく原因を解明し、対策を示して、しっかりと世の中に公表する。そういう責任を果たさないといけないというのが一番の判断でした。

当時の売上高は約700億円。約2カ月間の放送ストップによって、150億円の損失になりました。社員にとって約2カ月というのは長いんです。「会社は大丈夫なんだろうか」となりますから。

僕は計算したんです。今まで、ラジオショッピング、テレビショッピングで頑張って積み上げた資金がどのぐらいあるかと。そのお金を吐き出せば、1年か2年は社員たちに給料を払い続けられる。社員を守れるんだったら、ゼロに戻ってもいいと思ったんです。ゼロに戻っても、またやればいいんだからと。

結構、僕はシンプルなんです。あまりくよくよしない。また頑張ればいいさと。人間万事塞翁(さいおう)が馬。人間って良いことばかり続かないし、悪いことも起こり得る。あまり一喜一憂しないで、「やるぞ」というパッションと、アクションする力を持っておけば、人間は(困難を)乗り越えていけるんじゃないかと思っています。

「なんとかなるさ」+「情熱」

僕は平凡で普通の人間なんですよ。中学のクラスの委員長とか、大学時代もESSというクラブの副部長をやりましたけど、偶然そうなっただけのことであって。

だから、同級生も、どうして髙田がこんな会社を作ったんだろうって不思議に思っているんです。しゃべるのも得意じゃなかったのに、なんでテレビであんなにしゃべっているんだろうって。自分でも、そう思っています。

でも、根性というのかな。やらなきゃいけないことは徹底してやるストイックさは、自分の中にあるのかな。できないことをできないままじゃなくて、できないんだったら何ができないのか、自分でとことん突き詰めて、それを改善していくということが、自然に自分の中に備わってきた部分はあると思います。

ジャパネットたかた創業者の髙田明さん=清水憲司撮影
ジャパネットたかた創業者の髙田明さん=清水憲司撮影

人生とは何かと言えば「ボトルネックを探す旅」だと、僕は言っています。人生には、良いことも悪いことも起こるんだけども、その時に何が理由なんだろう、何がボトルネックになったんだろうと考えます。

そのボトルネックを追いかけていけば、それを乗り越えていく明確な答えが、いつの間にか、自分なりに見つかってくる。その時に自分がちょっと前に進めるんです。

ボトルネックは繰り返し出てくるんです。でも、それが当たり前のことであり、それが人生なんです。くよくよしないで、そこさえ乗り越えれば「何とかなるさ」という気持ちを持って、でも、やるべきことはしっかり地に足を着けてやり抜くパッション、情熱を持っていければ、結構、面白い人生になるんじゃないかと思います。

ボトルネックに正面から向き合う

でも、ストイックに努力をし続けることは必要です。くよくよせずに、またやればいいと申し上げました。そうなんだけれど、「やっているつもりの人生」では、物事は変わっていきません。ボトルネックを探し出して、それを良い方向に持っていくには、努力が必要なんです。

例えば、開店して1年のラーメン屋さんがあるとします。なかなかお客さんが増えない、売り上げが上がらない。誰が悪いのか。他の誰も悪くないんです。自分たちの問題なんです。

なぜ、お客さんが来ないのか。おいしいラーメンを作れていないからです。

うまくいかない時というのは、その現実を受け入れることができていないことが多いと思います。まずは受け入れて、おいしいラーメンとは何か。そのボトルネックに本当に向き合っていく。徹底的にやり続ける。そこの努力の差なんです。

もちろん、うまくいかない時はあります。でも、何回もボトルネックにぶつかるうちに、5勝5敗だったものが6勝4敗、7勝3敗になってくる。それを積み重ねていくことが大事なんじゃないかと思います。

僕は「一生懸命に今を生きる」ことが大事だと思っています。頑張る人のところには、同じ価値観を持った人たちが集まってきて、絶対に力になってくれるんです。企業でも、人生でも、家庭でも、みんなそうです。

任せる覚悟

髙田さんは66歳の時に、自らが創業したジャパネットたかたの社長職を長男・旭人さんに譲りました。「引退するのはまだ早い」という声もありましたが、いたずらに自らの影響力を残さないため、全権限を委譲して、早期かつスムーズな事業承継を果たしました。

「バトンを渡す」「任せる」ことは、「任される」よりもキツいと思います。トップに立つということは結構、孤独ですもん。すべての部分で最終決断をしなくてはいけないから。渡す側の気持ちはなかなか語られないかもしれないけれど、ファミリーであっても、そうでなくても、その歴史をバトンしていくというのは、それだけの覚悟がいると思います。任される人にも覚悟がいるし、任せる人にも覚悟がいる。

覚悟という点で言えば、ジャパネットという会社は、もう個人のものではなく、社会の公器ですから、能力だけじゃなくて、会社のミッション、理念、あり方をしっかり共有した人に事業承継しなきゃいけないと思っていました。

ジャパネットたかた社長の髙田旭人さんと握手する写真の前で笑顔を見せる同社創業者の髙田明さん=清水憲司撮影
ジャパネットたかた社長の髙田旭人さんと握手する写真の前で笑顔を見せる同社創業者の髙田明さん=清水憲司撮影

そういう意味では、(長男で現社長の)髙田旭人は僕以上に、真面目すぎるぐらい真面目なところがあります。彼は情報流出事件の時も先頭を切って原因解明のために努力したように、十数年間、(ジャパネットの経営という)世界を共有する中で、会社は社会の公器であるという感覚をしっかり持っていた。加えて、社員を巻き込んでいける能力、社員を家族のように思う気持ちもあると判断して、(旭人さんに)事業を承継しました。

世阿弥が教える「捨てる勇気」

僕には尊敬する人がいるんです。600年以上前の能楽師、世阿弥です。世阿弥は「老後の初心(老年になっても新しい試練に立ち向かっていくことができる)」ということを言っているんです。一流の能楽師だったわけですが、40歳を過ぎた時には、自分で能を舞うという役割を終わりにして、後進を育てることにしました。

人生の中には、それぞれの年齢によって役割があります。僕は自分が66歳で退けたというのは、みなさんに感謝ですし、よかったなあと思うんです。自分が退いた後も、(後継者から)相談されれば陰ながらアドバイスはするという形ができていれば、それでいいんだろうと思います。

人間には「もっとトップでいたい」と思う気持ちもあります。しかし、それを「捨てる勇気」が必要なんです。世阿弥を尊敬する僕にとっては、何かに固執することより、捨てることの方がはるかに大事だった。きれいごとを言っているみたいですけど、僕はそんなことを思うんです。だから、全く後悔がないんです。

捨てたくない気持ちが生じるのは、その人が「過去」を見ているからかもしれません。この先の「未来」を見るのであれば、会社を次世代に引き継いでいくことの方が大切になります。

会社は何のためにあるのか。人は人によって生かされているし、人は人のために生きてこそ人であるのと同じように、会社も世の中の人々の役に立ってこその会社です。そういう行動ができなくなった時、会社は終わります。

ジャパネットも100年、200年、世の中のためになる会社として存続してほしい。そう思うからこそ、次世代に任せる覚悟ができたんだと思います。

失敗は挑戦の証しです。失敗から立ち上がり、それを糧に次の挑戦に踏み出す。この連載「しくじり2.0 みんな失敗して大きくなった」では、そんな生き方を実践する方々にお話を聞いていきます。



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